前回の記事はこちら>> 睡眠に注目する3回のシリーズ。第1回ではストレスの原因でもあり、睡眠の質を低下させてしまうホルモン「コルチゾール」について、第2回ではレム睡眠とノンレム睡眠、2つの睡眠の役割について説明し、効率的な「うたた寝」の仕方に付いて述べてきました。 最終回の今回は、分割睡眠の極致といえるUberman(ウーベルマン)睡眠について詳しくご説明します。
Uberman睡眠とは
Uberman(ウーベルマン)とはドイツ語で「超人」を意味する単語。この睡眠法は総量たった2時間の睡眠を分割して行い、かつパフォーマンスを向上させるというまさに字の通り「超人的」な睡眠法です。 通常の睡眠では、一度に何時間も眠りますが、Uberman(ウーベルマン)睡眠では20分の眠りを4時間おきに6回に分割して行います。前者のような一度に長く眠る睡眠法を単相睡眠、後者のような眠りを何回にも分割して行う睡眠スタイルを多相睡眠といいます。 今までの記事を読んだ方は、当然疑問を抱くことでしょう。短時間のレム睡眠を繰り返した所で、結局睡眠負債が蓄積してパフォーマンスが低下するのでは? 前回の記事では、居眠りは有効だがあくまで本眠をしっかりとっていることが前提だとご紹介しました。しかし、このUberman(ウーベルマン)睡眠の場合、レム睡眠しかとらないため睡眠として機能しないように思えます。
本眠を必要としない理由
Uberman(ウーベルマン)睡眠では、4時間おきに規則的な睡眠をとります。このような一定の時刻に仮眠をとる行為を「アンカースリープ」といい、Uberman(ウーベルマン)睡眠を実践している人は仮眠のみで休息をとっているのです。 ではここで、深い眠りと言われる「ノンレム睡眠」の役割について前回の記事からおさらいしてみましょう。レム睡眠は、散らかった記憶や出来事、感情と言ったものを暫定的に処理してストックする機能を持つのに対して、ノンレム睡眠は、じっくりと蓄積したデータを整理整頓して収納することにより、記憶を定着させる重要な役割を持っています。 この役割に照らして考えるならば、Uberman(ウーベルマン)睡眠では記憶がしっかりと定着せず、パフォーマンスが低下してしまうということになります。ここでポイントになるのが、「規則的に必ず睡眠をとる」ということ。 確かに、慢性的な寝不足を仮眠によって凌ごうとする場合、それはあくまで「急場しのぎ」であり、溜まった負債を返済するにはしっかりとした本眠が必要になるかもしれません。ですが…そもそも4時間分のデータしか記憶が蓄積されていなかったとしたら?そもそも処理待ちのデータの量が少ない場合であれば……レム睡眠でも整理整頓して収納することは可能だ!ということなのです。
Uberman睡眠のメリット・デメリット
本当に1日2時間の睡眠でOKならすごいですよね。Uberman(ウーベルマン)睡眠がもたらす恩恵や、逆にデメリットとなる部分をご説明しましょう。
メリット1:時間が1/6倍速に感じる
普通の人間が24時間というサイクルの中で生きるのに対して、この睡眠法を実践している人は1日が4時間に感じられるようになります。1日の仕事をしたつもりでも、時間はたったの4時間しか経過していないということに…周りの人からは、その人だけ6倍速で動いているので、それは異質な存在に見えることでしょう。 文字通り、この睡眠サイクルで生きている人は超人めいた知覚を手に入れることとなります。
メリット2:4時間前に学習したことをすぐに実践できる
通常、人間の脳は充分な睡眠をとることによって初めて記憶として学習したことを定着させることができます。しかし、1日を24時間で生きている以上次の日を待つ必要があるのです。 対して、Uberman(ウーベルマン)睡眠では1日は4時間です。この睡眠法では4時間前に学んだことをすぐに実戦投入できます。
デメリット1:現実の世界との感覚が大きくズレる
時間の加速のメリットと対になるデメリットです。自分だけ6倍速になっているので、他の人はそのままだというのは中々に大きな問題だと言えるでしょう。 例えば、足並みを揃える仕事の場合、同僚の連絡を1時間待つだけでも、自分にとっては6時間待たされるのと同等の感覚を感じてしまうのです。 電車で1駅の移動を待つだけでもとても長く感じられるでしょう。このもどかしさは解消が難しく、他人と同期をとる必要のある職種の人にはこの睡眠法はオススメできないかもしれません。
デメリット2:肉体的な疲労は回復しづらい
肉体の修復が行われるのは主にノンレム睡眠の時です。つまり、激しい運動などで肉体的な疲労が蓄積してしまった場合、Uberman(ウーベルマン)睡眠で解消するのは非常に困難だと言えるでしょう。また、同じ理由で運動技能などの「肉体的な記憶の定着」はこの睡眠法では難しくなります。 Uberman(ウーベルマン)睡眠は、頭脳労働に対しては大きなパフォーマンスを発揮する可能性のある反面、肉体的労働に対しては致命的な欠陥を抱えてしまっているのです。
野生生物は、基本「小刻み睡眠」
哺乳類の生物の多くは、人間のように一度に何時間も眠ることはありません。野生動物にとって、無防備に深く眠るという行為はリスキー過ぎるからです。 人間に浸透している「単相睡眠」のスタイルは、実は産業革命以来のライフスタイルに合わせて徐々に確立されていったものだとされています。「多相睡眠」のお手本のようなこのUberman(ウーベルマン)睡眠ですが、これこそが文明によってカスタマイズされていない人の本来の睡眠スタイルなのかもしれませんね。
1日に20分の睡眠を定期的に6回…正直、実践はかなり困難ですがなんとしてでも短時間で成果を出したい!という方は試してみてもいいかもしれません。
脳の働きを高める工夫を更にお知りになりたい方は、ぜひこちらのコラムもご覧ください。
【食事編】
「脳にいい食べ物」で生産性UP!脳を活性化させるブレインフード
https://holos-brains.jp/column/post-1724/
【習慣編】
生産性を低下させる?!あなたが無意識にやってしまっている生活習慣とは?
https://holos-brains.jp/column/post-6062/
【環境編】
脳の正常な働きを維持するには? 重要なのは【換気】と【室温】
https://holos-brains.jp/column/post-5220/