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(後編)三代目桂春蝶をつくってきたもの~人財育成と落語の新しい可能性~

前回に続き、桂春蝶氏のインタビュー後半をお届けします。 「落語で伝えたい想い。」シリーズが生まれた背景や、今回のお披露目会演目「行と業~わたしは千日回峰行を生きました~」に込めた思いを伺ってきました。
前編はこちら (前編)三代目桂春蝶をつくってきたもの~人財育成と落語の新しい可能性~
『人財育成』×『落語』~三代目 桂春蝶 独演会~ についてはこちらから

きっかけは、「知覧特攻平和会館」

―そもそも、「落語で伝えたい想い。」シリーズはどういう経緯で生まれたのでしょうか?

たまたまお仕事で鹿児島に行く機会があったんです。 そちらにお邪魔した際に、お仕事先の方に「せっかくこの地に来ていただいたので、もしよかったら見て頂きたいところがあるんですよ。見に行かれますか?」とお声がけいただきました。 僕も全く予備知識無く言っていたので「何があるんですか?」と聞いたら、「えっ?知らないんですか?知らないという人は結構珍しいですね。」と。鹿児島の片田舎にそんな有名なところがあるんだな、くらいでついていかせてもらいました。

―鹿児島と言うと桜島とか指宿温泉とかのイメージですが、どんなところだったんですか?

その場所は坂の上にあるんですが、坂を昇っていくと、灯篭みたいなものが左右にいっぱい並んでるんです。 街の名前は知覧(チラン)といいます。 連れて行ってもらった場所は「知覧特攻平和会館」というところです。第二次世界大戦終期の沖縄戦で陸軍特別攻撃隊員として命を捧げた1000名以上の隊員の遺書や遺影、資料が展示されているところなんです。

―忘れてはいけない歴史ですよね。

そうですね、様々なことを感じました。
一番に感じたのは「今自分が生きている一日って、特攻隊のみなさんが生きたかった1日を生きているのではないか?」ということ。
僕の脳裏には父や枝雀師匠のことが思い浮かびました。
おそらく僕の父親や枝雀師匠なんかも生きることが難しいと悩んでいた人たちなんです。そして、なにか明日への一歩を踏み出すのに、よる術がない、どうしたらいいのかわからない。あんなに人に求められているのに、本人は幸せではなかったのかもしれない。
もしかしたら、知覧特攻隊の方々の現実にあったお話をお届けすることで、同じような、なにかに苦しんでいる方々に、少しでも心に寄り添えるようなお話というのが、落語という表現方法の中で造形できるのではないかと思ったんです。  

自分には、「落語」という届け方があった。

―浅い知識で申し訳ないのですが、落語というとどうしても”笑い”を思い浮かべますね。

そもそも落語とは、様々な方法で人間の共感を得続けるものだと僕は思っています。
人の共感というものを、どういう風にしてお届けできるかという芸だと思う。笑いと言うのも一つの共感。うわ~そうだったんだ!という共感。
落語の中には全く笑いの無い話もあります。最後にすごく感動する話、いわゆる人情噺。笑いも感動も実は根底では共感というもので繋がっている。納得とか得心とか腑に落ちるとか、笑い以外にも様々なファクターが落語の中にあると思っています。

―確かに、笑いがあるような噺の中でも生きる中での教訓と言うものがある気がします。

僕はね、お寺の掲示が大好きで集めていたという変わった少年だったんです。
中でも印象に残っているのは「人間は必ず一人出会わなければならない人がいる。それは自分自身である。」 落語家でもお勤めの方でも根本的には変わらないと思っています。
目的を失うとか、理想と現実とのギャップにうちひしがれてしまうとか、色々と悩みのポイントはあると思うんです。今までいろいろな方々に取材をしたり現況したりした結果、躓いて起き上がれなくなってしまう方々というのは、幸せの基準をしっかり持ち合わせていない、幸せの物差しをもっていない人だと思います。自分がこういうことなら満足なんだということ。自らが自らと会話が出来ていない時に起こりやすいと思うんです。

―「幸せの物差し」ですか?

「行と業」の根幹でもあるんですが、「何も起こらない・何も躓かないことが幸せなのではない。もっとも幸せなのは、自分の命を燃やし尽くすような大問題に出会うことである。」…これをストレートにいってもなかなか相手に届かないところがあります。

なので、届けるために自分には落語があると思っています。

この話は「どんな人にも起こりうる、絶望からの物語」

―「行と業」についてあらすじを少しだけお話し頂けますか?

「行と業」はこれまでのシリーズのような戦争や海難事故という特殊な場ではなく、どんな人でも起こりうるようなところに立たされた人が絶望を感じ、物事の解釈をどうきっちりとつけて、自分自身が明日への一歩を踏み出せばいいんだろうかという、実に内省的な話だと思います。
登場人物は自分が酒に溺れ、最愛の人の変化にも気付けず、終いには彼女とお腹の中にいた子を一度に亡くしてしまう。しかもその理由の主は自分にあるという、とても悲惨な出来事から物語から始まります。彼自身、自責の念に駆られ死んでしまう一歩手前まで行ってしまうんです。
だけど、”千日回峰行”に行くことが出来た。回峰行は、精神的にも肉体的にもキツい。来る日も来る日も山の中で自問自答を繰り返すも、なかなか前に進めない。しかし、回峰行という一つのわずかな光というか救いがあったという内容で、そこへたどり着くまでの苦しみや悲しみ、ほんのわずかな喜び、周りの人の有難み等を描いたお話です。
なるほどな、と納得できる形で色々な素晴らしい言葉とか、自分の心が軽くなる、明日への希望があふれるような言葉というのが、一つのストーリーの中に竹串でズボッと指したような内容になっていると思っています。

―私も観させて頂いたんですが、もの凄く自分のこれまでの人生に重なるところがあったり、想いを馳せる部分が多かったという印象です。

働き盛りでまだまだ自分と向き合わなければならない世代には、何かの言葉がひっかかって、そこから熟成が始まると思います。この作品は、今までもっとも感想のバックが返ってこない作品でもあるんです。困っちゃうんですよ(笑)。

―そうなんですか?どういった意味ででしょうか?

これね、皆さんからお話を聴いて分かったんですが、ご自身がどういう人生を送ってきたかで、ひっかかる部分が違うからだったんです。
実は追加公演をしたんですが、80%近くがリピーターなんです。後から聞いたら「わからなかったからもう一度来た」という意見が多かったので、僕がネガティブに捉えたら、お客さんが「そうじゃない」と。
一つのフレーズにひっかかって、自分の思い出の中とその言葉を重ねていたら聞き逃してしまった。だから全容が明らかになっていない、ということでした。人によっては3回くらい聞かないと全容が明らかにならないかもしれないです。それくらい情報量というかフックが多いんだと思うんです。

誰もが「答えを探している」時代に、「人の心を強くする物語」

―この「行と業~わたしは千日回峰行を生きました~」に込めた想いを教えて下さい。

おそらく、時代の価値観が物質的なところから精神的な幸せを求める方向へ移ってきているんだと思うんです。
文明から文化へと変わっている中、SNSが爆発するのも、みんな何かの答えを探しているような気がしますね。納得させてほしい言葉とかを、どこかでみんなが求めている気がします。
今回この作品を発表してから異例の速さであちこちの企業・団体からお声が掛かっています。今の世の中を見ていると、やっぱり精神的にふさぎ込む人も多いし、様々な病名も増えていくのではないでしょうか。さっきまで元気だった人が、ポンと命を絶ってしまったり、というのが多いですよね。

自分で言うのもなんですが、この作品は納得とか得心とか迷いを断ち切るとか、そういった言葉の詰め合わせになっていると思います。
これを聴いたからと言って即座に営業成績が上がるとか、実質はよくわかりません。ですが、何かの救いになるんだろうなと思います。自分自身が自分自身を見つめ、日々起こる問題などをどういう風に解釈していこう、というヒントが1時間半にたっぷり入っていると思います。こんな言い方おかしいかもしれませんが、怪我をしない心を作る手助けになってほしい、そんな想いから創りました。
『人財育成』×『落語』~三代目 桂春蝶 独演会~ についてはこちらから

 


三代目桂春蝶 “落語で伝えたい想いシリーズ”のご紹介
1作目 明日ある君へ~知覧特攻物語~
2作目 約束の海 エルトゥールル号
3作目 手紙~親愛なる子供たちへ~
4作目 ニライカナイで逢いましょう~ひめゆり学徒隊秘抄録~
5作目 茶粥屋綺譚
6作目 行と業~わたしは千日回峰行を生きました~
2021年、新たな作品の発表をすべく現在執筆活動に取り組んでいる

みなさま、是非1月23日のお披露目会にご参加下さい。

『人財育成』×『落語』~三代目 桂春蝶 独演会~

日時:2020年1月23日(木) 14:00~16:15(開場:13:30~) 会場:内幸町ホール(東京都千代田区内幸町1-5-1) 参加対象:経営者、企業の人事(研修)担当者

多くのご来場ありがとうございました

桂春蝶氏プロフィール

実父である二代目桂春蝶の死をきっかけに落語家になることを決意。平成6年に桂春団治に入門して春菜、平成21年8月に三代目桂春蝶を襲名。平成25年咲くやこの花賞、平成21年第4回繁昌亭爆笑賞、平成21年なにわ芸術祭審査員特別賞、平成19年なにわ芸術祭新人奨励賞受賞。落語の新境地を切り開くため伝統芸能、音楽など多彩なジャンルとのジョイントにも積極的に挑戦しています。

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