脳は非常に複雑な器官です。脳の機能やシステムは、いまだに全容が解明されておらず日々研究がすすめられていますが、さまざまな研究からは驚くような新しい事実も発見されています。 今回ご紹介するのは、2004年に「ジャーナル・オブ・ニューロサイエンス」に掲載された京都大学「こころの未来研究センター」の阿部修士准教授による「嘘つきと側坐核の関係について」の研究結果です。
側坐核とは?
側坐核とは、俗にヒトの「やる気スイッチ」と言われており、自己の動機づけに関与しているとされる脳内の部位です。側坐核は、運動系の中枢に位置し、行動の調整や選択を行っています。さらに、報酬系と言われる神経伝達物質の1つ「ドーパミン」が分泌される部位でもあり、感情や意欲など情動的な行動との結びつきが深い部位でもあります。では、そんな側坐核と嘘つきにはどのような関係性があるのでしょうか?早速見ていきましょう。
側坐核が活発な人は嘘つき?
まず、研究の結論からお伝えしますと「側坐核が活発な人は嘘つきな傾向にある」のだそうです。ちょっと聞き捨てならない話ですよね?自分の側坐核が活発なのかどうか、それが他人に、もしわかってしまうならちょっと嫌だし…などと考えてしまいます。 ご安心ください。側坐核が活発に活動しているかどうかは、他人からはわかりません。 また、側坐核が活発に活動する(嘘をつきやすい傾向にある)人が、理性を保って正直に行動しようとすると、脳の「背外側前頭前野」の動きが活発になることも同時にわかりました。 側坐核の活動の個人差によって、人間の正直さ、不正直さがある程度決まることを示したこの研究は、世界でも初だそうです。
金銭報酬遅延課題とコイントス課題
さて、いったいどんな実験で研究が行われたのでしょう?わかりやすく説明します。 ひとつめの実験は、「金銭報酬遅延課題」という実験です。 画面にとても短い間、正方形が現れ、その瞬間にボタンを押すことができれば、報酬(金銭)がもらえるという実験です。側坐核は報酬に期待が大きいと、活発になりますので、この実験の時に側坐核の活動が活発になった人ほど報酬(金銭)への欲求が大きいと言えます。
ふたつめの実験は「コイントス課題」です。 コインの裏表を当てるゲームのようなテストです。はじめに裏と表どちらが出るか予想して、実際にコインを投げて当たったら報酬(金銭)がもらえ、はずれたら逆にお金を失うというテストをします。 この時、ふたつのパターンでテストをします。ひとつのパターンは、予想を紙に書いてからコインを投げる「嘘をつけない」テスト。もうひとつは、予想は心の中だけで思う「嘘をつける」テストです。嘘をついたかどうかは、正解率が偶然の確立を上回っているかどうかで判断します。
嘘をつく傾向がばれちゃう?「側坐核」の活動と嘘の関係
このふたつの実験により、ひとつめの実験で、側坐核が活発に動いた「報酬への期待が大きい人」ほど、ふたつめの実験で「嘘をつく」傾向があるという結果が導き出されたのです。 側坐核が活発に働いていても、正直な答えを出した場合には、理性的な判断や行動の制御に重要な領域である「背外側前頭前野」が大きく働いていることもわかりました。「正しい行動をしよう」と理性を働かせて報酬への欲求を押さえていると考えられます。 『側坐核』と、『嘘』、そして『理性の関係』が明らかになりました。。側坐核が活発な人が「嘘つき」なわけではないことは、前述の結果でもわかりますがこれも脳の活動の計測で判明しているところが興味深いですね。
「やる気スイッチ」を正しく発動させよう!
「賞賛を得る」「契約をもらう」「昇給・昇格する」など、自分が望む報酬を手に入れるため、顧客との良好な関係を築き、自身のスキルアップや知識のアップデートなど自己研鑽に励んでいるビジネスパーソンは背外側前頭前野が活発に働き理性的な判断や行動を自ら行うことが出来る人でしょう。しかし、2番目の「コイントス課題」のように、報酬への欲求が大きくなりすぎることで、間違った方向に側坐核が「やる気」を出してしまう可能性が無いとは言い切れません。上司や顧客に対して嘘をついたり、誇大なセールストークを行う、都合の良い内容にデータを書き換える、または、事実とは異なる内容に聞こえるような伝え方になっていると、最悪の場合は訴訟に発展し、社会的信用を著しく低下させるなど、会社に多大な損害を与える恐れがあります。ヒヤリとした体験がある方は、自分自身の活動やその背景、その時の自身の思考を振り返り、内省してみましょう。そして、なによりも「自分が何のためにこの仕事を行っているのか?」「何を実現させたいのか?」という仕事に対するミッション(使命感)を改めて見つめ直すことをお勧めします。
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